実施報告:北大道新アカデミー2024後期総合コース
第3回「古文書から紐解くツルと人の関係史」2024.9.28(土)
久井貴世准教授(文学研究院)
久井准教授は、理系と文系を融合した研究を行っています。元々野生動物管理学を学んでいましたが、学生時代に指導教員から北広島でのツルの捕獲に関する明治時代の史料を見せてもらったことがきっかけで、古文書を用いた研究に取り組むようになりました。
講演では、古文書に記載されている「鶴」の名称と現在の種名が一致しないことがある一方で、江戸時代の人々がツルの形態や体色を正確に観察・記録していたことが強調されました。
例えば、「黒鶴」と書かれたツルは現在のクロヅルではなく、ナベヅルであることが確認できます。また、タンチョウは北海道から沖縄まで広く分布していたことや、ツルが食用・飼育用に利用され、贈答品としても珍重されており、資源管理のための保全制度も存在していたことが示されました。
明治時代に激減してしまい、主に道東地域にしか生息していなかったタンチョウですが、近年は道央地域でも再びその姿が見られるようになっています。久井准教授は、人間はツルにとって危険な存在である一方で、ツルが利用できる環境を作る存在でもあるとし、今後私たちはかつての生息地に戻りつつあるタンチョウを特別な存在ではなく当たり前の存在として受け入れていくのが理想ではないか、とまとめました。
なお今回の講演はホームカミングデーの一環として一般公開されました。
第2回「街にすむキツネと人のお話」2024.9.21(土)
池田貴子特任講師(大学院教育推進機構)
池田特任講師は、都市キツネの研究をしながら、キツネが媒介するエキノコックス感染症の問題について、ビジュアルデザインや市民向けイベントという形で積極的に社会とコミュニケーションをしています。まず、池田特任講師は調査データから、札幌市では1990年代からキツネが市街地に出没していることや、トウキビも主要な餌としていることなどを示し、キツネと人間の生活が重なっていることを示しました。
エキノコックス対策としては、駆虫薬を毎月まいてキツネに食べさせる方法もありますが、法規制や予算の問題ですべての市町村で実施されているわけではありません。また、都市ギツネへの餌やり問題もあります。さらにエキノコックスに感染するリスクの見積もりが難しく、対策の重み付け・価値が人によって異なります。このように都市ギツネの問題は科学だけでは解決できない問題だと池田特任講師は整理をしました。そして、「山に帰してあげたい」という声があるが、代々街にすむ都会っ子の都市ギツネに帰る山は無く、都市ギツネにとって人間とはお隣さんである、と講義を締めくくりました。