活動報告

先端生命科学研究院 門出健次先生
北大道新アカデミー2024前期理系 第1回

2024年度前期理系コースは、先端生命科学研究院の教員8名が「生物と物質の間 改めて「生命とは何か」を問う」をテーマに講義をします。初回4月6日の講師は門出健次先生(先端生命科学研究院 教授)。タイトルは「化学 X 生命 = 化学生物学、先端生命科学がめざすもの」です。
門出先生は素粒子から生物個体までを一覧し、その中の高分子は物質の世界と生命の世界の境界であり、この境界にある「化学生物学」は生物を理解するのに必須の学際領域であると指摘しました。そして、生物の重要な機能を担う酵素や受容体などの高分子と、それに作用するペニシリンやアスピリン(アセチルサリチル酸)、そして今問題となっているプベルル酸といった低分子の関係を例にお話をされました。
これらの低分子の機能を正確に理解するためには、立体的な分子構造の解明が必要不可欠です。逆に、構造がわかればその低分子の機能もわかってきます。この構造で重要なのは門出先生が専門としている「キラリティ」です。キラリティとは右手と左手の形のように、基本的な形は同じも重ね合わせられないものをさします。低分子には右手型と左手型があり、その機能は異なります。たとえば左手型のL-グルタミン酸はうま味の元ですが、右手型のD-グルタミン酸は味を感じさせることはありません。構成している元素やその化学的性質はまったく同じなのにもかかわらずです。
なぜキラリティが生じるかというと、低分子や高分子を構成する重要な元素である炭素は、他の元素と結合する「脚」が4本あり、他の元素とともに四面体構造をとるためです。そして生物は基本的にはL型を作り出し、L型とD型に異なる反応を示します。その例が1950年代に発売された睡眠薬サリドマイドです。右手型は睡眠を促す作用がありますが、左手型には胎児の発達を阻害する作用がありました。しかし当時は右手型と左手型を分離する技術も、片方だけを作る技術もありませんでした。これにより大きな被害がでて、ここからキラリティが重視されるようになったのです。
このような物質と生物の作用を踏まえ、最後に門出先生は「生命とは何か」という問いに対して、「わかるわけないけれども・・・生命とは化学である」とまとめました。
講義の後、会場からは「物質からどのように生命が生じたのか」「キラリティはどのように見分けるのか」といった質問がでました。

Facebook記事はこちらからご覧ください

記事一覧へ戻る