文学研究院 宮内泰介先生
北大道新アカデミー2024前期文系 第2回
2024年度前期文系コースは、文学研究院の教員8名が「戦争と平和 人文社会科学の視点から考える」をテーマに講義をします。
2回目の4月13日は、地域社会学・環境社会学が専門の宮内泰介先生です。社会学の調査方法の一つにフィールドワークがあります。実際に現地に足を運び、現場を見て歩き、人びとの話に耳を傾けることで、そこに暮らす人びとが何に困っているのか、そして、その問題にどのように向き合っているのかを明らかにする方法です。今回の講義タイトルは「南の島の紛争と人びと」。宮内先生のフィールドの一つ、ソロモン諸島がテーマです。
ソロモン諸島は南太平洋に浮かぶ数百の島で構成されています。国の人口は約72万人、札幌の半分以下の小さな国です。公用語として英語、そして英語と現地の言葉を組み合わせたピジン語が広く話されている一方で、それぞれの島や地域によって異なる約100近い言語が使われています。そんなソロモン諸島でなぜ紛争が起きたのでしょうか。その要因を知る手がかりは、ソロモン諸島の人びとの暮らし方と地理にあります。ソロモン諸島の人びとはライフステージに応じて、現地での自給自足と小さな個人事業で生活を営む「村の生活」と、不安定な労働環境ながら相対的に多くの賃金を得ることができる「町の生活」を繰り返します。また、ソロモン諸島の首都ホニアラは第二次世界大戦の激戦区だったガダルカナル島にあります。一方、ソロモン諸島で最も人口が多いのは、ガダルカナル島の北東にあるマライタ島です。紛争が起きた当時、ガダルカナル島の人はホニアラの人口の8%ほど、人口の45%はマライタ島の出身者が占めていました。さらに、マライタ島の人たちはホニアラ近郊の土地を購入して「村の生活」と「町の生活」を行うようになります。ガダルカナル島の人たちの中に、言葉も暮らし方も違う「余所者」が「自分たち」の生活を脅かしていると感じる人が出てくることもうなづけます。
1999年3月、ガダルカナル島武装勢力がホニアラに住むマライタ島の人たちを排斥し始めました。一方、2000年1月にはマライタ島武装勢力が現れます。二つの島の武装勢力の抗争は、2003年7月にオーストラリア軍がガダルカナル島武装勢力に残った民兵を解体するまで続きました。その間の死者はおよそ200名、国内避難民は35,000名に上りました。
宮内先生が実際に避難民の人たちに話を聞くと夫や妻が元住んでいた村を避難先にしていることがわかりました。「村の生活」と「町の生活」を行き来するライフサイクルに「避難」を組み込むことで、なんとかこの紛争を乗り越えようとしている人びとの生き方が浮かび上がってきます。
小さなソロモン諸島で起きた紛争の経緯は、今、世界で起きている戦争の理由にも通じるものがあります。紛争や戦争は、身の回りの小さな事柄をつなぎ合わせ、ささやかながらも穏やかに生活を営んでいる人びとの、その根幹である「生活を組み立てる方法」自体を破壊してしまいます。戦争や平和を、その地域の歴史・社会、そして人びとの暮らしから見る必要があると宮内先生はまとめました。
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