先端生命科学研究院 石原すみれ先生
北大道新アカデミー2024前期理系 第2回
先週から始まった2024年度前期理系コースは、先端生命科学研究院の教員8名が「生物と物質の間 改めて「生命とは何か」を問う」をテーマに講義をします。2回目の4月13日の講師は石原すみれ先生(先端生命科学研究院 助教)。細胞装置学研究室に所属しています。今回の講義タイトルは「細胞分裂から考える「生命とは何か」」。細胞から生命について考察します。
石原先生は自己紹介のあと「XXは生命といえるのか」と題して、ネコ、たんぽぽ、細胞、ウイルス、宝石、自動車を挙げました。ネコとたんぽぽは生命といえそうです。また宝石や自動車は生命とはいえなさそうです。では細胞やウイルスはどうでしょうか。石原先生は、細胞は生命と考えることができる一方で、ウイルスは生命と言い難いといいます。私たち人間ももとをたどれば一個の受精卵、すなわち細胞です。生物は細胞からできています。細胞は生命の最小単位といえるのです。
細胞の特徴として「膜によって内と外が仕切られている」「代謝を行い細胞自身に必要な物質やエネルギーを生み出だす」「細胞分裂を行い自己複製を作る」の3点が挙げられます。ウイルスは自分自身で自己の複製を作ることができず、他の生物に感染することで自己の複製を行います。これがウイルスが生命とは言い切れない理由です。
細胞は生命を理解する上で鍵になる存在です。目で直接見ることが難しい細胞を研究するためには、細胞を体の外に取り出し、細胞が生きているまま実験する必要があります。石原先生は、細胞培養実験に必要なインキュベーターやクリーンベンチ、肉眼では見えない細胞を観察するための顕微鏡とその仕組みについて解説を行いました。細胞培養を行うためには最新の注意が必要です。石原先生は、培養環境にイースト菌が紛れ込み、培養したい細胞ではなく、イースト菌が増殖してしまう失敗談を語りました。
石原先生は、細胞分裂の失敗について研究しています。細胞の中の染色体が自分のコピーを作り2倍に増え、それが半分になることで細胞は複製をつくります。しかし時に、分裂が失敗して染色体が2倍に増えた細胞ができることがあります。そして、この2倍に増えた細胞(染色体倍加細胞)とガンとの間に関係があるらしいことが近年報告されています。正常な細胞には影響を与えずに、染色体倍加細胞の増殖を抑えられる薬剤を見つけることができれば、副作用の少ないガンの治療薬を作れるかもしれません。石原先生の所属する研究室の大学院生が中心となり研究を行った結果、染色体倍加細胞を選択的に抑制する薬剤の発見に至りました。
最後に石原先生は「生命とは何か」について「わからない」と答えました。それは決してネガティブなものではなく、わからない対象を問い続ける研究者の真摯な態度と、これから研究者を目指すかもしれない会場の10代の受講者に向けてのエールのように感じました。
講義の後、会場から「石原先生の一番好きな細胞は?」と質問がありました。「推し細胞」について熱く語る石原先生の様子に、研究者の一面を見た気がしました。
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