活動報告

実施報告:北大道新アカデミー2026前期文系コース(メディア・コミュニケーション研究院)

観光・メディア・ことばで編む地域の物語

北大道新アカデミーは、地域の「知」のために、北海道大学と道新グループが協力して2018年4月に開講した新しい学びの場です。2026年度前期文系コースは、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院の研究者が「観光・メディア・ことばで編む地域の物語」と題して6回の講義を行います。

【講義概要】日常を離れ、いつもと異なる場所に出向き、知らない言葉や文化にふれることは、新たな発見をもたらします。その経験は、私たちの暮らしを見直すことにもつながります。今回の文系コースでは、観光学や言語学を専門とする研究者が、ユニークな事例の紹介や分析を通じ、地域の価値や文化を発見・表現・伝達することについて、わかりやすく紹介します。


第1回「聖地を創る観光メディア:サンティアゴ大聖堂から石の教会まで」
2026.4.11(土)
岡本亮輔教授(国際広報メディア・観光学院)

文系コースの初回の講義は、宗教学・観光学を専門にする岡本亮輔教授が務めました。現代社会における聖地の変容と生成を、体験・物語・不在の3点から考察します。最初に岡本教授は、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の徒歩巡礼を取り上げました。主な巡礼ルートには、フランスとスペインの国教にあたるピレネー山脈の麓から目的地の大聖堂まで約950キロの道のりを、約40日ほどかけて歩くコースがあります。2000年以降、徒歩巡礼に参加する人数が増えています。なぜ人は、お金も時間もかかる徒歩巡礼に惹かれるのでしょうか。岡本教授によれば、信仰を目的とした巡礼者が増えているわけではありません。むしろ、歩く速度でしか出会えない景色や、歩く体験そのものが、巡礼者の増加に寄与しています。体験が聖地を創るのです。次の話題は、青森県三戸郡新郷村のキリストの墓です。武内巨麿が発見した古文書の伝承に基づいて、新郷村では1964年からキリスト祭が行われています。伝統的な信仰や史実よりもむしろ、物語に基づいて聖地が創られ地域の観光資源となっていることがうかがえます。最後に取り上げられたのは、内村鑑三です。新渡戸稲造、宮部金吾と共に、札幌農学校2期生だった内村は、1891年の「不敬事件」をきっかけに第一高等学校の教壇を追われ、1990年に信仰を制度・組織・建物に閉じ込めない、無教会主義を提唱しました。内村の開いた私塾は、南原繁や矢内原忠雄ら、戦後日本に大きな影響を与える人びとを輩出します。しかし、現在、ここが内村の聖地と呼ばれる場所はありません。それは、内村の無教会主義が聖地を否定する思想であることも関係しています。内村の聖地が「ない」ということが、逆に彼の業績の語り直しにつながるのではないかと、岡本教授はまとめました。

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