活動報告

実施報告:北大道新アカデミー2026前期文系コース(メディア・コミュニケーション研究院)

観光・メディア・ことばで編む地域の物語

北大道新アカデミーは、地域の「知」のために、北海道大学と道新グループが協力して2018年4月に開講した新しい学びの場です。2026年度前期文系コースは、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院の研究者が「観光・メディア・ことばで編む地域の物語」と題して6回の講義を行います。

【講義概要】日常を離れ、いつもと異なる場所に出向き、知らない言葉や文化にふれることは、新たな発見をもたらします。その経験は、私たちの暮らしを見直すことにもつながります。今回の文系コースでは、観光学や言語学を専門とする研究者が、ユニークな事例の紹介や分析を通じ、地域の価値や文化を発見・表現・伝達することについて、わかりやすく紹介します。


第3回「我が国と北海道における観光の在り方」
2026.4.25(土)
神山裕之教授(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院)

今回の講義は、観光政策・観光経済が専門の神山裕之教授が務めました。日本と北海道の観光産業がテーマです。2023年、日本の名目GDPはドル換算で約4兆2000億ドルとなり、ドイツに抜かれ世界第4位となりました。2024年の国民1人あたりの名目GDPもOECD加盟38カ国中24位の状況です。また世界全体で人口は増加傾向にある中で、日本は人口減少局面に入っています。生産年齢人口の減少は、労働力、消費額、納税額の低下をもたらします。とりわけ北海道は全国と比較して速いペースで人口減少が進んでいます。
神山教授は、観光が北海道の持続可能な地方創生の有力な手段になると指摘します。2025年の国内観光消費額は約26.8兆円、前年比6.4%となりました。2025年のインバウンド(訪日外国人)の旅行消費額は約9.5兆円と過去最高を記録しています。北海道に目を向けると2024年に北海道を訪れた観光客数は4,154万人、前年比4%増となりました、そのうちインバウンドは約280万人で前年に比べて21%の増加です(日本経済新聞2025年9月3日)。以上のデータから、観光産業が成長産業であること、そして、今後の観光振興の鍵はインバウンドが握っていることがうかがえます。神山教授は、地域で観光振興を進めていくための要諦として、1)DXやシェアード・サービスを利用し生産性を高めること、2)旅行客の1回あたりの滞在時間を長くし、サービスの高付加価値化を進め消費単価の向上を図ること、3)季節・地域・時間に起因する観光客のピークを平準化することで地域の観光資源を最大限活用しつつオーバーツーリズムを防ぐこと、4)地産地消の促進など地元に利益を還元する収益の内部化を進め「観光振興のエコシステム」を構築することの4点を指摘しました。このような取り組みを進めていくためには、地域のステークホルダーや行政の協力が不可欠です。北海道の観光産業の今後の方針を知ることのできる講義でした。


第2回「樹木葬が映す現代社会」
2026.4.18(土)
上田裕文教授(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院)

今回の講義は上田裕文教授を講師に迎え、樹木葬をテーマに開講しました。樹木葬とは墓石の代わりに、樹木を用いる埋葬方法です。少子高齢化、家族構成の多様が進む中、人びとの墓地や葬儀についての考え方に変化が生じ、樹木葬への関心も高まりました。1999年に岩手県の知勝院で始まった日本の樹木葬は、2021年時点において、日本全国で約900箇所の実施を数えています。樹木葬が普及する過程で、その形態も多様化してきました。遺骨を土に還すという意味での「自然葬としての樹木葬」は半数以下です。樹木葬がエコロジカルな埋葬方法であるとはいいきれないと、上田教授は指摘しました。
日本とドイツの樹木葬を比較すると、両国の樹木葬や遺骨についての考え方の違いが浮き彫りになります。ドイツ初の樹木葬は2001年、国有林のラインハルトの森に誕生しました。遺骨を土中に埋葬することが義務化されているドイツの樹木葬は、森の中の木を墓標とし、その根元に遺骨を埋葬し土に還します。一方、日本の場合、火葬後の遺骨は遺族の所有物となり、死者はモノとなって残り続けます。その場合、お墓は遺骨の保管場所としての意味合いを強めます。遺骨を所有物と考える日本の樹木葬では「遺骨の管理」が焦点化します。遺族は遺骨管理の負担を減らしたい一方で、死者の供養をきちんとしたいとも考えています。現代の家族形態を反映し、今の家族と一緒に入りつつ、残された家族の遺骨管理の負担を減らす、ミニマムな家族葬の1つとして都市型樹木葬が定着しつつあるのもその流れだといえるでしょう。近年は、樹木葬を行う墓地をオープンスペースとすることで、その場を訪れる人が死者に祈りを行う空間としてデザインする試みも行われています。人は必ず死に、そのときには何も持って行けません。だからこそ、残った人の記憶に残りたいと思う。その思いが樹木葬のあり方にも表れているように感じました。


第1回「聖地を創る観光メディア:サンティアゴ大聖堂から石の教会まで」
2026.4.11(土)
岡本亮輔教授(国際広報メディア・観光学院)

文系コースの初回の講義は、宗教学・観光学を専門にする岡本亮輔教授が務めました。現代社会における聖地の変容と生成を、体験・物語・不在の3点から考察します。最初に岡本教授は、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の徒歩巡礼を取り上げました。主な巡礼ルートには、フランスとスペインの国教にあたるピレネー山脈の麓から目的地の大聖堂まで約950キロの道のりを、約40日ほどかけて歩くコースがあります。2000年以降、徒歩巡礼に参加する人数が増えています。なぜ人は、お金も時間もかかる徒歩巡礼に惹かれるのでしょうか。岡本教授によれば、信仰を目的とした巡礼者が増えているわけではありません。むしろ、歩く速度でしか出会えない景色や、歩く体験そのものが、巡礼者の増加に寄与しています。体験が聖地を創るのです。次の話題は、青森県三戸郡新郷村のキリストの墓です。武内巨麿が発見した古文書の伝承に基づいて、新郷村では1964年からキリスト祭が行われています。伝統的な信仰や史実よりもむしろ、物語に基づいて聖地が創られ地域の観光資源となっていることがうかがえます。最後に取り上げられたのは、内村鑑三です。新渡戸稲造、宮部金吾と共に、札幌農学校2期生だった内村は、1891年の「不敬事件」をきっかけに第一高等学校の教壇を追われ、1990年に信仰を制度・組織・建物に閉じ込めない、無教会主義を提唱しました。内村の開いた私塾は、南原繁や矢内原忠雄ら、戦後日本に大きな影響を与える人びとを輩出します。しかし、現在、ここが内村の聖地と呼ばれる場所はありません。それは、内村の無教会主義が聖地を否定する思想であることも関係しています。内村の聖地が「ない」ということが、逆に彼の業績の語り直しにつながるのではないかと、岡本教授はまとめました。

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