活動報告

先端生命科学研究院 山口諒先生
北大道新アカデミー2024前期理系 第4回

5月最後の土曜日にあたる5月25日15:00~16:30、北海道大学札幌キャンパス学術交流会館大講堂にて、北大道新アカデミー理系コースが開講しました。理系コースの総合テーマは「生物と物質の間 改めて「生命とは何か」を問う」です。第4回の講義は、数理生物学が専門の山口諒先生(先端生命科学研究院助教)による「進化を通して生命の本質をみる」です。
今回の理系コースの共通テーマである「生命とは何か」について、山口先生は「進化から生命を考える」ことを提案し、三つの観点から講義を行いました。
第一の話題は、生命における進化です。山口先生は冒頭で遺伝学者のテオドウシス・ドブシャンスキーの言葉「進化を考慮しない生物学は何も意味をなさない」を紹介しました。進化は生命について考える上で重要な視点です。例えば、現在の生物の教科書では、ウイルスは生物でもない非生物でもない中間的な存在とされています。ウイルスを生物として捉える根拠として、ウイルスも他の生物と同じように進化することを挙げることができます。
今回の講義では進化を「生物の遺伝的性質が世代を超えて変化していくこと」と捉えます。繁殖可能な次世代の個体数、細胞であれば24時間あたりの増殖率を高めれば、遺伝的性質を次世代に伝えやすくなります。これらを適応度と言います。適応度が高い遺伝的性質を持つものが進化、すなわち世代を超えた変化に適していることになります。進化は長い時間がかかるものだけでなく、比較的短く、私たちが実際に実験・観察することができる進化もあります。山口先生は、1日に約6回分裂し世代交代を行う大腸菌を用いた研究や、シャーレの中で行われたダニの進化実験の例を紹介しました。
第二の話題は、数学です。山口先生は「数学は道具である」といいます。数学を使うと言葉よりもクリアに現象のしくみを説明することができます。生物学に数学を応用するのが、数理生物学です。数理生物学では、現実をシンプルにした数理モデルを使って生命現象の理解や予測を行います。予想の確からしさを実験や観察による実証研究を通じて確かめ、数理モデルの妥当性を高めていきます。山口先生は、モデル作りにおいて重要な、メカニスティックな見方について紹介しました。これは、現象において重要だと思われる要素を取り出すことを指します。要素を組み合わせて妥当なモデルを作ることが理論研究の要点です。
最後に、山口先生は、進化ゲーム理論のハンディキャップ原理について紹介しました。動物のメスは、子孫を残すために能力が高いオスを選ぶ傾向があります。このようなオスはどうやったら見分けられるでしょうか。例えば、オスのクジャクは華美な羽を持っています。このような羽を維持するにはコストがかかります。オスはメスに対して自分が生存に対してハンディキャップを持ちつつも生き残っていることをアピールすることで、自分がよりよく環境に適応していることを明確に示すことができます。このように考えると、オスとっては、視界を遮るようなたてがみや、きらびやかな羽など、一見生活していくためには不要なものを持っている方が、適応度が高い遺伝的性質といえるようにも思えます。進化の不思議さを感じる事例です。
山口先生の講義を受講した方からは「生物の進化を数理モデルで表現できることを知ることができた」「数学もしっかり勉強していきたいと思います」といった感想が寄せられました。

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