活動報告

文学研究院 伍嘉誠先生
北大道新アカデミー2024前期文系 第5回

ひと月ほど間がありましたが、2024年度前期の北大道新アカデミーが6月29日に再開しました。文系コース第5回の講師は伍嘉誠先生(文学研究院 准教授)です。伍先生は香港出身で、博士課程を北海道大学で修め、長崎大学をへて現在北海道大学で香港の社会運動について研究をしています。
講義のテーマは中国に対する香港と台湾における社会運動の連帯です。まず伍先生は、香港と台湾には、北朝鮮、パレスチナ、北極、南極と同じ特徴がある、というお話から講義を始めました。これらの地域は「その他」に分類されており、正式には日本も国として扱ってはいません。
香港はアヘン戦争(1840-42)によって英国に割譲され、長らく英国の統治下にありましたが、1997年に中国に返還されました。中国は返還後も香港に一定の自治をみとめ、いわゆる一国二制度が生まれました。しかし、徐々にその制度は形骸化しつつあり、中国政府と香港の人々との溝も深まっていると指摘されています。
香港人の帰属意識を調べた香港大学民意調査によると、返還から20年たつ現在、中国人としてより香港人としてアイデンティティを持つ人がむしろ増えている現状があるといいます。また、「返還を誇りに思わない」とする回答が2000年代半ばから上昇し、7割に達しています。このような中国離れの背景には、中国と香港との交流が増えることによる文化衝突の表面化だけではなく、植民地時代の歴史的施設の取り壊し、愛国心教育の導入(2011年)などがあります。
2014年に行政教官の選挙制度を変えるとの方針が発表されました。これは予備審査付きの選挙だとして、民主派によって「偽普通選挙」と批判されました。学生を中心としたいわゆる「雨傘運動」が起きました。さらに2019年には犯罪者の引渡しに関する条例の改正がしめされましたが、これも香港の裁判権の独立を脅かすものとして大規模な反対運動が起きました。
このような状況に、台湾の人々も呼応し、実際にガスマスクを送るといった支援も行われました。一国二制度はもともと台湾のために発明されたものであり、香港の次は台湾の主権が脅かされるという強い懸念があるからです。2014年に台湾でも中国との結びつきを強める経済協定への反対から「ひまわり運動」と呼ばれる大規模な社会運動が起きました。また、「中国政府は台湾の友達である」に同意しない回答者は7割を越えている調査結果もあります。
伍先生はこれらの動きを整理したうえで、台湾の歴史学者呉叡人の論考『小人国の夢』を紹介しました。呉氏は、中国という巨人に対応せざるを得ない小人国、運命共同体として香港と台湾を位置づけているだけではなく、ガリヴァー旅行記の小人国がガリバーを捕らえたように、小人が連帯して巨人に対応することも可能なことを示していると紹介しました。最後に、伍先生は中国大陸・台湾・香港の緊張緩和と相互信頼が回復する方法を、我々が模索しなければいけないと述べて締めくくりました。
前期文系コース第1回の吉開先生も中国の近年の動向に関しての講義でした。あらためて近年の東アジア情勢を理解することができた講義だったのではないでしょうか。受講者からは「香港・台湾問題に日本はどう係われるのか知りたい」といった感想もありました。

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