先端生命科学研究院 中村公則先生
北大道新アカデミー2024前期理系 第6回
2024年度前期理系コースの第6回目は、大学院先端生命科学研究院教授の中村公則先生です。7月6日の講義では【共生する腸内細菌と私たちの健康】と題し、腸内細菌と免疫の機能についてたくさんの学びを得ました。今回は皆様に当日の中村先生の講義の様子をお届けします。
本日のセミナーのキーワードは「腸」と「免疫」と「腸内細菌」です。最近の研究で、腸内細菌が健康に密接に関与していることが明らかになってきました。腸内細菌は約100兆個、100種類も腸内に存在し腸内細菌叢を形成しています。私たちが健康な状態を保つためには、腸内細菌叢を構成する菌の種類や比率が適切なバランスで維持されることが重要です。そのバランスが崩れると病気になる可能性が高くなります。
はじめに、小腸と大腸の違いについて説明します。小腸は栄養吸収の働きを担い、表面積を広げる構造の絨毛といわれるひだを持っています。一方、大腸は水分吸収と便の形成の役割を担っています。皮膚などを除き、基本的に成人になると細胞は入れ替わりませんが、腸管上皮細胞は3日ごとに新しくなり、常に新しい細胞で栄養を効率的に吸収します。この新陳代謝の速さが、腸での感染を防止する免疫機能にも関与しています。
また、小腸にはパネト細胞という細胞があります。パネト細胞は小腸の底部に位置し、抗菌ペプチドαディフェンシンを分泌します。このペプチドは病原菌を殺す役割を持ち、腸での感染防御、すなわち免疫に重要な役割を担っています。以上より、腸は栄養吸収、排泄、免疫機能といった私たちが健康で生きていく上で重要な機能を日々営んでいます。これら腸の機能が正常に働くためには、腸内細菌の存在が重要であることが知られてきています。
腸内細菌叢の形成には、特に母親からの伝播が大きな影響を与えます。母体の中の赤ちゃんは無菌状態ですが、産道を通る際に母親の菌を取り入れます。その後、授乳やさまざまな環境への接触を通じてさらに多くの菌を獲得します。これにより、赤ちゃんの腸内細菌叢が形成され、免疫機能の発達を助けます。
腸内細菌叢が健康に与える影響は広範囲にわたります。例えば、肥満の人の腸内細菌を移植された無菌マウスは肥満になりやすいことが分かっています。このように、腸内細菌が体重や代謝に大きな影響を与えることが確認されています。
さらに、腸内細菌は精神的な健康にも影響を与えることが研究で明らかになっています。例えば、腸内細菌叢のバランスが崩れると、うつ病や不安障害のリスクが高まることが示されています。このような研究結果から、腸内細菌叢のバランスを保つことが精神的な健康にも重要であることが分かります。
腸内細菌叢のバランスを保つためには、バランスの取れた食事が重要です。特に、食物繊維が豊富な食品や発酵食品を積極的に摂取することが推奨されます。具体的には、野菜、果物、全粒穀物、ヨーグルト、納豆、味噌、漬物などが挙げられます。
最後に、腸内細菌叢のバランスを保つことが長寿や健康に寄与することが多くの研究で示されています。例えば、京都市と京丹後市の65歳以上の腸内細菌を比較した研究では、長寿者の腸内には特定の有益な細菌が多く含まれていることが分かりました。このことから、食生活の改善が腸内細菌叢のバランスを整え、健康を維持するために重要であることが示唆されています。
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