先端生命科学研究院教授 黒川孝幸先生
北大道新アカデミー2024前期理系 第7回
2024年度前期理系コースの第7回目は、大学院先端生命科学研究院教授の黒川孝幸先生です。7月20日の講義では【材料的視点での整体組織の機能】と題して、講義が行われました。今回はその内容をご紹介します。
北大に25年間在籍し、ゲルの研究一筋で取り組んできました。私の専門は、物理や化学というよりもゲルそのものです。私たちの研究室は「転成ソフトマター研究室」といい、基礎研究から応用まで幅広く取り組んでいます。基礎的な知見を医療応用などに繋げることも目指しています。
例えば、機能性ゲルとして、90%が水分であるにもかかわらずトラックが踏んでも壊れないダブルネットワークゲルや、自己修復機能を持つゲルを開発しています。また、構造色を利用したキラキラとした色彩を持つゲルもあります。これらのゲルの特性を理解し、医療応用へと繋げるための研究などを行っています。
近年では、北大病院の医師と連携し、内視鏡治療で使用するゲルの開発にも取り組んでいます。胃酸や消化液から患部を保護するためのゲル膜の研究です。このような用途に応じて多様なゲルを使い分けることが私たちの強みです。
ゲルについて話を進めます。ゲルはジェリーのようなもので、代表的な例としてソフトコンタクトレンズが挙げられます。他にも、芳香剤やシップ薬としても使用されています。
ゲルは、水を大量に含んだ液体に形を持たせたものです。プラスチックと同様に化学合成で作られ、高分子のネットワーク構造に水分を閉じ込めています。ゲルの種類は広範囲にわたりますが、私たちの研究室では特にハイドロゲルを中心に研究しています。
ゲルは生物にも多く存在します。例えば、果物や野菜、さらにはお刺身やお肉もゲルに分類されます。生物はほとんどがゲルでできており、この特性を理解することで生物の機能が解明されることがあります。
生物がゲルを使う理由の一つは、中に水が含まれていることで化学反応が可能になる点です。代謝反応が行われ、細胞が生成される場を提供します。私たちの体は、細胞だけでなく、細胞が作り出す物質で構成されています。例えば、骨や筋肉、皮膚の多くは細胞外マトリックスでできています。
ゲルの摩擦特性についても研究しています。ゲルは滑りやすく、軟骨や眼球の表面、血管内皮などに応用できると考えています。血管内では、赤血球が変形して流れやすくなることが知られています。これは、毛細血管の内径が赤血球よりも小さいためです。
摩擦の低さは、血管内皮細胞が作るグリコカリックスというブラシ状構造によるものです。この構造が摩擦を低減させる効果を持ち、赤血球が滑らかに流れるのを助けます。
ゲルの摩擦特性を理解するために、様々な実験を行いました。ゲル表面にブラシ状構造を作り出し、摩擦力を測定することで、非常に低い摩擦係数を実現しました。これは、関節軟骨や人工関節の研究に応用できる可能性があります。
私たちの体は、化学的な特性だけでなく、物理的な特性によって機能が決まることが多いです。今日の講演では、ゲルの構造とその応用例を通じて、生物の機能がどのように物理的な法則によって決まるかをお話ししました。生物の構造を模倣することで、私たちの研究がどのように進化し、応用されるかを理解する手助けになることを願っています。
Facebook記事はこちらからご覧ください