実施報告:北大道新アカデミー2025後期理系コース(理学研究院)
100年の時をこえて~「なぜ?」をつなぐ理学の継承者たち~
北海道大学理学部は1930年に設立され、現在に至ります。この間、世界のあまねく現象の「なぜ」を追究する理学研究は著しく発展してきました。100年前の出来事や世界的な研究にどのようなものがあり、それを踏まえて現在、どのような研究が進められているのか、その未来は? 6分野の研究者がご紹介します。
第1回「アインシュタインの相対性理論とその量子化への挑戦」2025.9.20(土)
鈴木久男教授(理学研究院 物理学部門)
初回は理論物理学を専門とする鈴木久男教授が講義を行いました。
19世紀末、自然現象はそれまでの物理学でほぼ説明し尽くされたと考えられていましたが、光速度をめぐる矛盾などが残されていました。アインシュタインはこれに挑み、1905年に特殊相対性理論を提唱しました。鈴木教授はこれを説明するために、走るバスの前後方向に雷が落ちる例や、宇宙ステーションから光を出して超遠方での反射を受け取る思考実験などの例をアニメーションで示しながら、同時性の破れ、時間の遅れ、長さの短縮といった直感に反する現象を紹介しました。そしてさらにアインシュタインは1915年の一般相対性理論で惑星軌道のずれや重力による光の曲がりを説明できる理論をたて、20世紀物理学の地平を開いたことを示しました。

続いて光電効果を端緒とする量子仮説(エネルギーなどの物理量が連続的な値ではなく、飛び飛びの値をとること)を経て、約100年前の1920年代半ばに生まれた量子力学が取り上げられました。ハイゼンベルグやシュレディンガーの理論、さらにディラックの相対論的量子力学、朝永振一郎らが切り開いた量子電磁気学へと発展する過程が解説され、「現象を説明するために量子力学の理論が作られ、初期の量子力学の理論に修正が加わることで量子力学が進展してきた」「それがわかりにくい理由でもある」とお話されました。
現在も重力を量子論で説明する統一的理論の構築は未完成で、鈴木教授も紐理論での解明に挑戦しています。宇宙の構成要素の95%を占める暗黒物質や暗黒エネルギーは現在でも謎のままであり、鈴木教授は「100年経っても人類はまだ分からないことだらけ」と語りました。講義の所々ではテレビ出演の余談も交えるなどして笑いも起こり、最後には「重力で光が曲がるとはどういうことか」「わからないことがわかった」「電子とは何か」といった質問が相次ぎ、活発な雰囲気の中で締めくくられました。