インタビュー

広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム開講〜安心安全な社会の実現を目指して〜

2025年10月に、北海道大学広域複合災害研究センターが新規に開講する、北海道大学リカレント教育プログラム「広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム(N-HRP; エヌ・ハープ)」。プログラムの運営に関わっている、北海道大学広域複合災害研究センターの川村壮特任准教授にお話を聞きました。

川村壮北海道大学広域複合災害研究センター特任准教授

――防災や減災に関係する教育の現状や動向について教えてください。

高校で地理総合が必修になりました。地理総合では、地震、津波、洪水や土砂災害などの自然災害や防災について学びます。具体的には、自然災害が生じるメカニズムや、地域特性と災害の関係、避難行動などです。高校生は、全員、防災や減災について学ぶ機会があります。もちろん大学でも様々な専門分野で災害研究が行われています。
防災や減災に関する教育についていえば、現場で災害対応にあたる行政職員のニーズが高まりつつあります。土木建築の専門職員が災害対応にあたることはもちろんなのですが、市町村では総務部門に防災担当部署が設置されていることが多く、配属になった事務職員が主に災害対応を担っています。災害対応の現場での経験を積むことは、対応方法を学ぶためのひとつの方法です。しかし、大規模な災害は発生確率が低いため、その災害に対応するためのノウハウを、現場の経験から学ぶことは困難です。これが、社会人向けの防災・減災教育が必要とされる理由です。

――災害や減災に関して、北海道の地域的な特徴について教えてください。

北海道は積雪寒冷地なので、厳冬期の災害への備えが急務です。例えば、1993年1月に起きた釧路沖地震は厳冬期の大規模災害の事例です。もし2018年9月の北海道胆振東部地震とそれに伴う大停電の事案が厳冬期に生じたら、電気が使えないので当然人命にも関わります。津波からの避難では、積雪の影響で歩行速度が遅くなる、外に出る前に防寒着を着る必要があるなど、避難速度や避難のスタートの遅れに影響すると考えられます。さらに、冬場に高台にある屋外の一時避難所で一晩過ごすことは命に関わります。
また、北海道は本州との交通手段が限られているため、災害時には物資の陸上輸送が困難になります。その場合、港湾を使った物資の輸送が計画される一方で、内陸部への展開が滞ることや、港湾が津波による被害を受けることを想定しておく必要があります。

――北海道大学広域複合災害研究センターが「広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム(N-HRP; エヌ・ハープ)」を実施しようと考えた理由を教えてください。

理由はふたつあります。ひとつは、北海道の地域防災力、災害対応力を高めることです。前にも述べたように、広域複合災害については、その対応を経験から学ぶことは困難です。ゆえに、改めて総合的・体系的に、防災・減災についての知見を学ぶプログラムが必要となります。本プログラムは、市町村の職員、防災に関わる民間の技術者や、NPO団体の関係者に、防災・減災についての学びの機会を提供します。
もうひとつは、北海道大学広域複合災害研究センターや本プログラムがハブとなり、北海道の地域防災に関わる人びとの、人的ネットワークをつくることです。互いに交流して知識を学び合うことを通じて、地域間の連携を強めることは、ひいては、北海道の地域防災力、災害対応力の向上につながります。

――「広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム」の特徴、とくに他のプログラムにない強みになる点を教えてください。

北海道大学の多様な分野の研究者だけではなく、経験豊富な実務家教員で構成された講義は、本プログラムの特徴です。災害対策を行うためには、災害の予防、初動、復旧・復興に目配せした「災害マネジメントサイクル」が重要です。本プログラムの全30回の講義で、災害対策において、行政やNPOの関係者が、目の前で対応しなければならないことを一通り学ぶことができます。災害対応でその都度法令に沿って対応する行政職員の方には、災害関連法令の講義や、避難所運営の方法、救急医療や衛生管理、災害廃棄物処理などについての講義は有用だと思います。

――北海道大学広域複合災害研究センターが「広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム」を通じて目指す将来の社会像を教えてください。

この社会人向けの防災教育プログラムを通じて、災害対応において科学的知見に基づいた判断ができる方、周囲と連携しながら現場での対応実務ができる方を増やしていきたいです。長期的には、そのような方々が地域で活躍することで、安心安全な社会が実現されることを期待しています。


北海道大学広域複合災害研究センターが実施する「広域複合災害減災を強力に推進する専門人材養成プログラム(N-HRP; エヌ・ハープ)」の募集要項および申込フォームはこちらです。2025年度の申込締切は8月5日(火)です。

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