活動報告

実施報告:北大道新アカデミー2025前期文系コース

北大道新アカデミーは、地域の「知」のために、北海道大学と道新グループが協力して2018年4月に開講した新しい学びの場です。2025年度前期文系コースは、北海道大学大学院教育学研究院の研究者が「「学習」とは何か 学びを深める学びを学ぶ」と題して8回の講義を行います。

【講義概要】学習することは私たちにとって身近な事柄のように見えますが、改めて考えると、それは様々な見方や考え方、性質や機能、領域や場面とかかわっていることがわかります。「学習」とは何か、「教育」とは何か、「学ぶ」とはどういうことかを切り口に、私たちの生活と学ぶことの関係や、誰もが学習する機会にひらかれた社会について考えます。

第2回「日本型公教育・学校システムにおける教育機会保障」2025.4.19(土)
篠原岳司准教授(教育学研究院)

2回目の講義は、教育行政学、学校経営論が専門の篠原准教授が担当しました。日本の学校教育制度と教育機会の保障がテーマです。教育を受ける権利の保障が、教育機会保障です。日本国憲法は、勤労・納税・教育を受けさせる義務を定めています。日本の就学義務制度は「一条校」への就学に限り、かつ、満15歳までを対象とした年齢主義を前提としています。「一条校」とは学校教育法第1条「学校の定義」に挙げられている、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校(小中一貫校)、高等学校、中等教育学校(中高一貫校)、特別支援学校、大学及び高等専門学校を指します。「一条校」制度は、私たちの教育を受ける権利を保障するための基幹となる制度です。一方で、今日の不登校者数の増加を見れば、従来からの「一条校」への就学の仕組みには限界が訪れている可能性があると篠原准教授は指摘します。そして、子どもの教育機会保障の将来展望として、一条校の制度を変革し、授業時間などを弾力的に運用することで包摂性を高め、より学校に通いやすくする方向と、一条校以外の教育機関へ、就学機会を開いていく方向の、2つがあることを提示しました。子どもたち誰もが等しく学び続けられる社会をつくっていくための根幹となる、日本の公教育制度について知ることのできる講義でした。

篠原准教授の講義の様子は北海道大学大学院教育学研究院のウェブサイトにも掲載されています。

第1回「教育(education)の由来」2025.4.12(土)
白水浩信教授(教育学研究院)

初回の講義は「教育とは何か」を言葉の意味から考えていきます。担当する白水教授の専門は西洋教育史、教育思想史です。白水教授は、教育の原語であるeducationの元の意味が「能力を引き出すこと(drawing out)」といわれていることに疑問を抱きました。そこで「教育」の言葉の意味を語源から確かめていきます。教育の〈育〉あるいは〈毓〉は古代中国では「母が子どもを宿し、産む行為」を意味していました。また〈教〉と〈学〉は、共に「天と地を占いを通じてなかだちすること」を意味しています。現在では「教える」ことと「学ぶ」ことは対照的な意味ですが、漢字の語源としては一体のものだったのです。ではeducationの場合はどうでしょうか。ラテン語の語源educatioの古い意味は「栄養を与え養う」ことでした。〈育〉の語意に近いことが興味深いです。それがどうして「引き出す」ことになったのでしょう。白水教授は文献研究を通じてeducatioの元の動詞である、educareと似た、educereへ意図的に語源が書き換えられことを明らかにしました。educareの意味は養うこと、一方、educereの意味は引き出すことです。この書き換えによって、教育が、子どもをしつけ服従さることで能力を引き出すdisciplineの意味に転じていった可能性があると、白水教授は指摘しました。教育、educationの語源が、生命を養い育むことであり、現代のwell-beingの理念に通じていることは「学び直す」ことの意義をより深める知見だと感じました。

白水教授の講義の様子は北海道大学大学院教育学研究院のウェブサイトにも掲載されています。

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